クラウドストレージは、ビジネスデータと顧客データを保護しながらコンピューティングニーズとストレージニーズに対応できる効果的なツールであることから、非常に人気が高まっています。オンラインストレージの導入を目指している企業にとって、このエンタープライズクラウドストレージガイドは最適なストレージオプションを決定する際の助けとなります。また、オンラインストレージの概要、その仕組み、安全性、利用可能なエンタープライズ向けクラウドストレージオプションの種類、利点と欠点についての説明も含まれています。
クラウドストレージは、オンラインのファイルストレージです。ローカルストレージオプション (フラッシュドライブ、ハードディスク、外付けハードディスクなど) を使用してファイルを保存するのではなく、オンラインに保存します。このクラウドコンピューティングモデルにより、データをリモートサーバーに保存して、インターネット (クラウド) 経由でデータにアクセスすることが可能です。管理、保守、運用は、仮想化技術を基盤とするストレージサーバー上でサービスプロバイダによって実施されます。
オンラインストレージサービスを利用するうえでまず前提となるのが、ユーザーの利便性です。今日の変化の激しいビジネスの世界では、顧客も従業員も情報やデータに即時にアクセスできることが求められます。そこで、オンラインストレージを利用して、デバイス (PC、タブレット、スマートフォン、またはデスクトップ) からファイルやアプリにアクセスできるようにします。また、オンラインストレージは、パフォーマンスの強化、追加のストレージ領域、安全なプラットフォームを実現しており、オンプレミスストレージを使用したくない場合に重要なファイル、アプリ、またはデータログを保存することができます。
数多くのさまざまなオンラインストレージシステムが存在しています。機能面で見ると、デジタル写真や Web メールメッセージを保存するもの、デジタルデータを保存するものなどがあります。規模で見ると、データサーバーを 1 台だけ使用する小規模運用から、ウェアハウスが物理機器で占められる非常に大規模なもの (エンタープライズストレージソリューション) まであります。
オンラインストレージシステムが稼動するには、インターネットに接続されたデータサーバーが 1 台あれば済みます。まず、(クライアントから) ファイルのコピーをインターネット経由でデータセンターに送信し、データセンターでその情報を記録します。ファイルを取得する場合は、Web ベースのインターフェースを使用してデータサーバーにアクセスすると、サーバーによりファイルへのアクセスが許可されるか、該当ファイルがクライアントに送信されます。
通常、クラウドベースのストレージシステムでは多くのデータサーバーが使用されます。コンピュータは修復やメンテナンスを必要とすることがあり、別の電源系統を持つ複数のマシンでデータをバックアップする必要があるためです。このような冗長化の仕組みがなければ、オンラインストレージシステムでは、クライアントによるデータへのインスタントアクセスを常時確保することはできません。
エンタープライズクラウドストレージおよびバックアップは、オンプレミスのデータストレージで問題が発生した場合に情報をリカバリできるため、ビジネスにとって不可欠です。
信頼できるオンラインストレージサービスでは、データを暗号化して保護し、アクセスの際にパスワードを要求します。また、保存ファイルを多要素認証によって保護し、ファイルにアクセスする際にパスワードに加えてログイン時に独自に生成される別のコードを要求することができます。
ファイルやアプリをオンラインアカウントにアップロードする方法もさまざまです。一部のオンラインストレージサービスでサポートするのは、ブラウザからのアップロードのみです。つまり、データをアップロードするにはサービスの Web サイトにログインする必要があります。サービスの専用フォルダにファイルを容易にドラッグアンドドロップできるデスクトップアプリを提供するサービスもあります。
ファイルやデータをオンラインに保存すると、モバイルデバイスからのアクセス、音楽や動画のストリーミング、リンクによる他者とのファイル共有、ファイル暗号化による保護、ファイルのダウンロード、ファイル削除による空き容量確保などの操作を行うことができます。
市場には多数のエンタープライズクラウドサービスプロバイダ (CSP) が存在するため、データの安全性を維持する一方で最大限の帯域幅と低コストのストレージを提供するプロバイダを選択するには、慎重さが必要です。信頼性の高いパブリック CSP は複数存在しますが、すべてのエンタープライズデータストレージニーズを満たす最適な選択肢を見つける必要があります。
クラウドコンピューティングとストレージまたは統合情報管理プラットフォームというハイブリッドタイプを検討している企業が増えています。ハイブリッドモデルでは、パブリッククラウドインフラとプライベートクラウドインフラの両方の利点を組み合わせて、低コストで柔軟性とセキュリティを強化できます。このモデルにより、低セキュリティのパブリッククラウドと高セキュリティのプライベートクラウドのギャップが埋まります。パブリック CSP に任意のサーバーが接続されていても、ハイブリッドネットワークとは言えません。ハイブリッドの場合、プライベートクラウドインフラがクラウドサービス上で動作している必要があります。
最適なオンラインエンタープライズクラウドストレージシステムの条件は以下のとおりです。
クラウドに保存されるデータの安全性は、使用するオンラインストレージソリューションに関連します。クラウドプロバイダは、バックアップを電源系統が異なる複数の場所に保存してデータの損失を防ぎます。こうしたデータセンターでは、非常用電源、煙探知、消火などの機能を備えた高度なシステムを使用します。さらに、侵入、ストレージソフトウェアの盗難、または内部犯行による物理的破壊を防ぐために、厳重に監視、補強、内部的に保護されています。データセキュリティに影響を及ぼす可能性があるランサムウェアとマルウェアの詳細をご確認ください。
クラウドシステムでは、パスワードやユーザー名などの認証プロセスを使用してアクセスを制限することで、データを保護し、不正アクセスを防止します。通信中の傍受やサーバーからの盗難に対してデータを保護するため、データの暗号化と多要素認証も使用されます。ただし、パスワードはハッキングされることがあり、社内の人間であればデータの暗号化キーにアクセス可能です。また、データは行政機関による捜索や差し押さえの対象になります。
データをクラウドに置いても安全でしょうか? 実際のところ、データセキュリティを 100% 保証できるクラウドサービスプロバイダは存在しません。ほとんどのオンラインストレージ企業は競争の激しい市場で事業を展開しており、評判に大きく左右されます。最新のセキュリティ対策を講じてクライアントのデータを保護できるよう細心の注意を払っているため、安心して利用できます。
本来ならばプライベートなクラウドデータを行政機関が不正に盗聴していることが露呈しているような時代です。機密扱いの個人情報や企業情報はクラウドに保存しないようにすべきです。ただし、CSP は、ほとんどのローカルストレージオプションより複雑なセキュリティ手法でデータを保護しています。
どのオンラインストレージシステムも火事、台風、洪水、コンピュータのメルトダウンによる損失からデータを保護しますが、データは第三者の配下にあるため、依然として危険性が存在します。したがって、プロバイダを選択する前に必ず調査を行ってください。
また、オンラインストレージは、Google ドライブなどの別のストレージシステムと併用すると信頼性が向上します。エンタープライズクラウドストレージサービスの最大の懸念事項はデータのハッキングではなくデータの損失であるため、ストレージプラットフォームではなく共有プラットフォームとしてクラウドを使用することで懸念は解消されます。
オンラインストレージサービスは 100% の安全性を保証するものではありませんが、その利点は潜在的なリスクを差し引いても有り余るものがあります。その証拠に、多数の企業がこのサービスを広く利用しています。
このクラウドサービスでは、共有インフラ内でクラウドを利用できます。プロバイダがすべてのクラウドインフラ (ハードウェアとソフトウェア) を所有および管理し、インターネット経由でクラウドサービスとして提供します。パブリッククラウドは大規模集合住宅だと考えてください。CSP は家主で、サービスを利用する個人および企業のクライアントは賃借人です。リソース共有の原則により、CSP は低価格で住宅を提供できます。
このようなリソースの共有には多くの利点があります。業界の規制コンプライアンスが厳しいうえに、質の高いインフラ投資により顧客の注目を集めるためです。上記以外のパブリッククラウドの利点は次のとおりです。
リソースを共有するパブリッククラウドとは異なり、プライベートクラウドは 1 つの組織が占有します。保有するミッションクリティカルなデータのためにセキュリティの強化を必要とする大企業にお勧めのソリューションです。プライベートクラウドソリューションを選択することが多い業種として、金融機関、行政機関、医療機関が挙げられます。
インフラは、サードパーティベンダーが提供するホスティング型と、オンプレミス型があります。いずれの場合も、ハードウェアとサービスは自社専用で利用できます。利点は次のとおりです。
プライベートクラウドモデルは、データセンターおよび IT チームの所有と管理が必要になるため、パブリッククラウドモデルと比較して高コストです。サードパーティベンダーへのアウトソーシングも高額です。
ハイブリッドシステムは、プライベートクラウドとパブリッククラウドの両方を組み合わせたものです。つまり、クラウドの一部については IT チームが社内で管理し、残りはオフサイトで管理されます。このクラウドソリューションについては、後のセクションで詳しく説明します。
このクラウドインフラの場合、さまざまな組織または部門からデータにアクセスできます。共同で作業できるため、特定の業種や業務内容 (コンプライアンス、セキュリティ、裁判管轄など) が共通する、特定のコミュニティにおける複数のエンティティ間でインフラを共有できます。サードパーティあるいは社内で管理されます。例を挙げると、異なる町にある、同じ企業の支店などで利用されます。別々の行政機関がコミュニティクラウドインフラ経由で行政に関するデータにアクセスすることも可能です。
モバイルオンラインストレージを使用すると、ファイル、写真、動画、音楽をモバイルデバイス (タブレット、ノート PC、スマートフォン) から保存および管理できます。現在、多くの新しいモバイルデバイスで、ファイルのバックアップに使用できるオンラインストレージがプリロードおよび設定されています。Android OS デバイスは Google ドライブ、Apple iOS は iCloud を使用し、Samsung Galaxy は Dropbox と提携しています。
クラウドベースのサービスを使用することにより、外付けハードドライブや社内ホスティングソリューションを使用する場合と比較して、運用コストを削減できる可能性が高まります。定期的なバックアップを手動で行うのに時間をとられることもなくなります。メンテナンスに高額の費用がかかるサーバーを追加する必要もありません。オンラインストレージを活用することで十分なデータの保管場所を確保できます。多くの場合、手頃な低価格で提供されています。
ローカルストレージでは、ファイルまたはデータにアクセスできる場所が限定されます。一方、オンラインストレージでは、日常的に使用するデバイスがアクセスポイントになります。このため、世界中のどこからでも、クラウド内のすべてのファイル、写真、アプリ、動画、フォルダにアクセスできます。もちろん、インターネットにアクセスでき、必要な資格情報を持っている必要があります。これにより、ファイルへのアクセスが必要になるたびに面倒で複雑なデバイス間のファイル転送を行う必要がなくなります。
オンラインストレージを利用するうえで最も重要な利点は、バックアップソリューションがディザスタリカバリシナリオで問題が発生し、データの損失や破損が発生した場合に保証されていることだと考えられます。コンピュータに保存されているファイルに問題が発生した場合でも、ダウンタイムを最小限に抑えて、すぐにクラウドにアクセスして取得することが可能です。
クラウド内のすべてのファイルを同期できます。このため、1 つのファイルに変更を加えると、すべての連携デバイスに変更が自動的に同期されます。つまり、すべてのデバイス間でファイルが同じ状態になり、取得方法にかかわらず、ファイルの最新バージョンを取得できます。
ほとんどの CSP では、サーバーとプロトコルにセキュリティ層を追加して、保存されているすべてのデータを外部からのハッキングや物理攻撃から保護します。競争優位性を強化するために、CSP は、企業では通常適用しないような最新のエンタープライズクラスのセキュリティ対策を導入しています。データは保管中も転送中も暗号化されるため、権限のないユーザーはデータにアクセスできません。
ファイルを共有するために多数のメールを送信するのは面倒な作業です。クラウドなら、1 つ以上のファイルを複数の受信者間で簡単に同期および共有できます。また、ストレージサービスにより、同僚とのコラボレーション、編集機能の使用 (権限がある場合) が可能です。さらに、編集による変更は自動的に保存され、共同編集者全員での共有を簡単に行えます。
データをクラウドに移行すると、ローカルデバイスおよびハードウェアの容量が解放されます。データは CSP のサーバーに仮想的に保存されるため、オンプレミスの貴重な容量を有効に活用できるようになります。
クラウドにアクセスするにはインターネット接続が必要です。オンラインストレージソリューションはインターネットのアップロード/ダウンロード速度に依存するため、遅延が大きいとアプリまたはデータへのリアルタイムアクセスを著しく妨げる可能性があります。
オンラインストレージとインターネット帯域幅の最大取り込み速度がローカルネットワークまたはディスクよりも制限されている場合がありますが、ファイルサーバーやワークステーションのバックアップでは問題とはなりません。バックアップはバックグラウンドで動作可能であるためです。初回のフルバックアップが完了した後は、増分バックアップに加え、重複排除と圧縮によりバックアップのサイズと時間が削減されます。
一方、データベース (たとえば Microsoft SQL Server) などの特定用途のアプリケーションは、長いバックアップ時間によって影響を受ける可能性があります。この場合は、これらのアプリケーションをメンテナンス時間帯またはアクティビティが少ない時間にバックアップすることができます。
すべては定格のオンラインストレージ速度とインターネット帯域幅次第です。クラッシュまたは損傷後のサーバー全体のリストアには長い時間がかかる場合がありますが、ファイルレベルのリストアは同様に高速です。重要なのは、リカバリ時間目標を確実に達成することです。実現できない場合は、重要なサーバーでのハイブリッドバックアップを実行し、バックアップをクラウドとローカルストレージの両方に転送することを検討します。バックアップコピーが 2 つになることで、(クラウドベンダーやインターネットの可用性に依存せずに) 迅速なローカルリストアが可能になるだけでなく、ディザスタリカバリのためのオフサイトストレージ保護という利点も得られます。
バックアップが営業時間のピーク時に実行される場合、インターネットの使用頻度が高いとすべてのインターネット関連アクティビティのパフォーマンスに影響を及ぼします。利用ルールを設定してインターネット帯域幅を制御し、他の重要なビジネスアクティビティのために必要な時間帯にインターネット接続が飽和しないようにする必要があります。
大企業にとってオンラインストレージデバイスは適切なソリューションですが、プライベートソリューションは小規模企業にとって非常に高コストになる場合があります。
ログイン資格情報の不適切な取り扱いに注意が必要です。紛失したユーザー ID とパスワードを使用してアカウントにアクセスされてしまいます。他者が推測できないような複雑なパスワードを使用するとともに、HDD やペンドライブなどのデバイスに保存しないようにします。また、資格情報を忘れてしまうと、その回復に面倒な手続きが必要となる場合があります。
カスタマーサポートは、多くの CSP にとって大きな強みとは言えません。したがって、会社の利用規約や契約、オンラインフォーラム、FAQ をよく調べる必要があります。
CSP との関係が良好であったとしても問題が 1 つあります。第三者がデータを管理するという点です。つまり、パブリック CSP を選択した場合、データに対する制御は限定的になります。また、所有権の問題もあります。データを CSP のサーバーに移行した後は、情報を所有するのが自社か CSP かを判断することが困難になる場合があるからです。
名前が示すとおり、ハイブリッドクラウドでは、プライベートクラウドソリューションとパブリッククラウドソリューションをカスタマイズ可能な独自のオンラインストレージに統合して、両方のソリューションの利点を活かすことができます。アプリケーションとデータは、必要に応じてプライベートクラウドとパブリッククラウドの間を自由に移動できるため、柔軟性が向上します。
ほとんどの企業では、Web メールなど機密性の低い一部の業務にパブリッククラウドを使用できます。ただし、こうした企業でもデータログを保存するためにプライベートクラウドサービスが必要になります。そこで登場したのがハイブリッドソリューションです。利点は次のとおりです。
たとえば、銀行でハイブリッドクラウドシステムを導入し、顧客との通信アカウントをパブリッククラウドに保存します。一方で、機密性の高いアカウント情報はプライベートクラウドサービスに保存できます。
エンタープライズクラウドストレージは、特に中小規模企業向けのデジタルデータストレージとして主要な手法となっており、適切な手法といえます。業界クラスの安全対策を利用してデータを保護しているため、ローカルストレージよりも安全です。また、容量の効率やコスト効率が高く、世界中からアクセス可能であり、ファイルをすばやく同期および共有し、データの損失を防止できます。